「同じ名前の原料」が同じものとは限りません。粉末になった時点で原形は見えなくなり、残るのは規格書に書かれた文字だけです。FONTIAの調達は、その文字が何を指しているかを確定させるところから始まります。
1. 物質を特定する ― CAS番号の限界も含めて
最初の作業は物質の特定です。弊社カタログでは308品目にCAS番号を明記しています。ただしCAS番号だけでは足りない場面が二つあります。
同じ物質なのにCASが違う ― 塩の形
塩の形が変われば別のCAS番号が付きます。L-カルニチンを例にとると、弊社で扱う三形態はすべて番号が異なります。
| 形態 | CAS番号 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| L-カルニチン(遊離体) | 541-15-1 | 吸湿性が高く開封後の取り扱いに注意 |
| L-カルニチンフマル酸塩 | 90471-79-7 | フマル酸の分子量が上乗せされる |
| L-カルニチン酒石酸塩 | 36687-82-8 | 粉末として比較的安定 |
重要なのは、同じ重量を配合しても届くL-カルニチンの量が違うという点です。規格書が「塩として○%以上」なのか「L-カルニチンとして○%以上」なのかを確認し、形態を変えるときは配合量をそのまま持ち越さず本体基準で設計し直します。
CASが同じなのに別物 ― 由来と等級
逆のパターンもあります。イヌリンはチコリ由来でもアガベ由来でもCASは同じです。結晶セルロースとセルロースも物質としては同じ系列ですが、規格が違えば用途適合性が変わります。CAS番号は「物質」の番号であり、「商品」の番号ではありません。
2. 含量の基準を固める ― %の分母は何か
調達で最も手戻りが起きるのがここです。同じ「○%」でも、何を分母にした%かで必要な原料量が変わります。弊社が実際に扱う品目から四つ挙げます。
| 原料 | 分母の分かれ方 | ずれの大きさ |
|---|---|---|
| L-カルニチン | 塩として / L-カルニチンとして | 対イオンの分子量分 |
| ルテイン | 遊離型 / エステル型 | 脂肪酸の分子量分 |
| ビルベリーエキス | アントシアニン36% / アントシアニジン25% | 約1.4倍 |
| グルコシルセラミド | 原料重量 / 成分量 | 含量%による |
ビルベリーの例は分かりやすい数字が出ます。規格書には「アントシアニン36.0%以上」と「アントシアニジン25.0%以上」が並んで書かれます。配糖体として測るか、糖を外したアグリコンとして測るかの違いで、どちらも同じロットについて正しい値です。機能性表示の関与成分名は「ビルベリー由来アントシアニン」なので36%の方を使いますが、25%で割ってしまうと必要なエキス量を約1.4倍に見積もってしまいます。
ご相談の際は「この原料を」ではなく「この成分量を、この剤形で」という形でお知らせいただければ、分母を揃えたうえで候補をお出しします。
3. 濃縮倍数表記に公的な規格はない
植物エキスの品名には「20:1」「50倍濃縮」といった表記がしばしば入ります。これは原料植物の重量に対するエキスの比を示す慣行的な表記で、これを規律する公的な基準はありません。数字が規格のように見えますが規格ではありません。
実際に比較できるのは指標成分の含量です。同じ「20:1」でも、抽出溶媒・抽出部位・乾燥方法が違えば中身は変わります。弊社では濃縮倍数を品名として扱い、選定の根拠には指標成分の規格値を用います。
4. 産地と製造所 ― 粉末化の前に決まること
同じ植物でも産地と部位で中身が変わります。根か葉か、どの時期に採ったか、どこで乾燥したか。これらは粉末になった後では確認できませんから、調達の段階で押さえる必要があります。
- 産地 ― 国・地域のレベルで。弊社カタログでは原産地を分類項目として持っています
- 使用部位 ― 根・葉・果実・種子・樹皮。同じ植物でも成分組成が異なります
- 製造所 ― 抽出・乾燥・粉砕をどこで行ったか。認証の有無
- 近縁種との区別 ― ビルベリー(Vaccinium myrtillus)とブルーベリー(Vaccinium spp.)のように、名前が近くても別種の例は多くあります
5. 小ロット・試作への対応
開発段階では、まず少量で確かめたいという場面が多くあります。弊社は試作・小ロットからのご相談を受けています。量産時の条件と揃えておきたい項目(同一ロットでの供給可否、規格の継続性、リードタイム)も併せてご相談ください。
調達時の確認リスト
- CAS番号 ― 塩の形・水和物の別まで
- 含量の基準 ― %の分母が何か。換算が必要なら係数と根拠
- 指標成分の規格値 ― 濃縮倍数ではなく
- 産地・使用部位・製造所
- 分析方法 ― 公定書法か社内法か
- ロット間のばらつき ― 規格下限ではなく実測の分布
- 保管条件と有効期間
- 小ロット可否とリードタイム
